クルーズ船の救命ボートについて&クルーズの安全性・安全対策について

クルーズ船の救命ボートについての10の知識

クルーズ船に設置されている救命ボートにはどんな役割があるのでしょうか?緊急避難では乗りたくはありませんが、沖留めのクルーズ寄港地でクルーズ船から港まで輸送するテンダーボートとして乗船されたこともある方も多数いるかと思います。救命ボートについての知識のまとめです。

◾️テンダーボートになる

一部の救助ボートは「船から陸地まで往復させるボート」テンダーボートになり、船が接岸できず沖合に停泊しなければならない寄港地で使用されます。思っている以上に速く移動することができますが、全長に渡って窓のない救命ボートは通常テンダーボートとしては使用されません

◾️定員数が増加変更

IMO(国際海事機関)のSOLAS(海上人命安全)コード4.4.2.1で設定された救命ボートの定員数はもともと150人でしたが、現在のクルーズ船の救命ボートの多くは300人乗りです。現在乗客定員が7,000人を超えるロイヤルカリビアンのオアシス級の巨大クルーズ船には例外が設けられており、同クルーズラインの最新船アイコン・オブ・ザ・シーズは定員450人の救命ボートが搭載されています。

◾️全員分の救命ボートと救命いかだがある

SOLAS法では、乗客の75%(船の両側に37.5%)を収容できる十分な救命ボートが必要とされており、乗客の100%を収容できる十分な救命ボートと救命いかだを用意する必要があります。25%は救命いかだになる可能性があり、通常は船の側面にある円形のドラム缶に保管されており、水に当たると自動的に膨張する静水圧リリースシステムを採用しています。(※救命いかだは主に乗務員用ですが、各救命ボートには乗客に物資、食料などを提供する乗組員も乗船します。各救命ボートの乗務員の数は異なりますが、ボートの大きさによって10〜18人になるとされています)

◾️救命ボートの色が変更


(Photo: CruiseFever)
歴史的に救命ボートの色は会場で発見しやすいオレンジ色でしたが、ディズニー・クルーズラインはブランドの配色が対照的だったことから米国湾岸警備隊の承認を得て、救命ボートを明るい黄色に塗装しました。それ以降、ロイヤル・カリビアンは救命ボートの色として黄色を採用しており、コスタ・クルーズにも黄色い救命ボートを搭載したクルーズ船があります。

◾️救命ボートは20度傾いても進水可能

救命ボートはあらゆる状況で進水することが可能です。調整可能なダビットや自動バランスウインチなどの特別発射システムにより救命ボートを安全に下ろすことができ、救命ボート自体は水に入ると直立するように設計されています。

◾️あらゆる側面から定期的にテストされる

救命ボートはクルーズ船に設置される前に、厳しいテストを受けます。定員分の体重を想定し水の重りを入れたり、ボート自体が様々な荷重や重量配分に耐えれるかなどの確認が含まれます。また救命ボートを海に降ろした際、乗務員による試運転がありそこでも安全の確認がされています。救命ボートは毎週および毎月検査を受けて損傷や不適切な機器の機能がないかの確認がされています。救命いかだは乗務員が簡単に点検することができないので、定期的に検査のために施設に送られています。また、救命ボートに搭載されている食料、電池、信号機器、救急セットの設備、品質の確認検査もされており、緊急時に全て機能することが確認されています。

◾️各ボートに運転する運転指揮官が割り当てられている

クルーズ船の救命ボートを運転するには、授業、筆記試験、水上での実技試験を含む特別な認定が必要で、特定の救命ボート運転責任者は多くの場合、現在その役職についている人ではなく船内での役職によって決まります。また、各ボートには進水チームが割り当てられており、訓練は舞台裏で行われています。

◾️少なくても1週間分の食料と水がある

救命ボートには少なくとも1週間分の真水と食料が搭載されています。1人1日あたり約0.5Lの水、高カロリーの乾燥ビスケットが用意されています。

◾️救命ボートでは酔い止めの薬もある

大型クルーズ船に比べ、小型である救命ボートは小さな波であってもかなりの割合で上下や前後に揺れます。そのため全ての救命ボートには乗船者全員分の酔い止め薬が備え付けられています。

【体験談】テンダーボートは乗船時、海上に留まっている時は結構揺れますが、走行し始めるとそんなに揺れは感じませんでした。

◾️その他救命ボートに備えられているアイテム

釣具、シーアンカー、熱保護ブランケットと補助具、救急セット、缶切り、ロープと縄梯子、発煙筒、方位磁針、消化器、懐中電灯と電池他などがある。

◾️一部の救命ボートにはトイレがある

最近の救命ボートにはトイレがついているものもあります。2009年にオアシス・オブ・ザ・シーズがデビューした際、「370人乗りの救命ボート」という新しいコンセプトが誕生しました。
(引用&Thanks to CruiseFever:「クルーズ船の救命ボート:ほとんどの人が知らない10の驚くべき事実」)


クルーズ船の救命ボートツアーの動画です。ヴァージンボヤージュのValiant Lady(2020年/110,000トン/乗客定員2,770名)の救命ボートのようです。救命ボートに備えてある備品の紹介、操縦席、エンジンなどを紹介しています。

クルーズ船の安全性と安全対策

「クルーズ旅行は安全なのか?」クルーズ未経験の方、これから初めてのクルーズ旅行に出る方、そしてクルーズ経験者であってもクルーズ関連事故のニュースを見聞きする度にそう思うかもしれません。しかし、完全にリスクを伴わない旅行もありません。全てのクルーズ会社には責任を負う全ての乗客の安全を確保する法的義務があります。クルーズ船が遵守しなければならない安全規則やクルーズ船で発生しうる事故の可能性、またその対策などを以下にまとめています。

クルーズは安全か?

2023年末までにクルーズ船の乗客数は世界中で合計すると3,150万人を超え、これだけの多くの人がクルーズ旅行に出ると怪我や死亡事故が比較的多いと予想されますが、最近の統計ではクルーズ船内で死亡する確率はわずか625万分の1ということです。自動車事故で死亡する確率は103分の1であると国家安全評議会(NSC)は主張し、国際海事機関(IMO)もクルーズ船の乗客100万人あたりの事故数は他の客船に比べて大幅に少ないと報告しています。

クルーズ船ではどのような事故が発生する可能性があるか?

◾️乗客の船外事故

全てのクルーズ会社は、乗客や乗組員が船外に転落するリスクを制限するために可能な限りのことをしています。人海難事故はクルーズ船の規模の大きさ、乗客数の多さ、航行海域の種類を考慮すると危険ではありますが、事故の可能性を減らすためにほとんどのクルーズ船は誤って船から転落することがほぼ不可能になるように設計されています。

船外落下防止の対策

・屋外エリアの高い手すりの設置
・事故を検出する高度なモーションセンサーやカメラなどの設置

船外の転落事故を防ぐため、手すりやバルコニーに腰掛けたり、登ったりするだけで強制下船を命じられるほど厳しい措置が講じられているクルーズ会社もあります。

【事故事例】
『マリナー・オブ・ザ・シーズ乗客が手すりに座って写真を撮ろうとしたところ船外へ落下』(cruisehive:ロイヤルカリビアン船の乗客の救助に成功(2023.6.26)))

◾️火災に関連したリスク

クルーズ船の設計者や安全規制当局も、火災のリスクに非常に注意を払っており、現代のクルーズ船は火災が発生した場合に直ちに区分できるように設計され、火災事故が発生した場合の様々な安全策も講じています。

火災防止対策

◽️消火設備
平均的なクルーズ船/2,800人ごと
・5つの消防チーム
・4,000台の煙探知機
・500台の消火器
・26マイル(約42km )相当の消火スプリンクラーシステム配管
・6マイル(約9.6km )の消防ホース
◽️不燃性家具の設置
・家具や内装には可能な限り不燃性の素材を使用し、燃え広がり難いよう配慮

船内での火災を防ぐため、発火の恐れがあるものは持ち込まないことが大切です。クルーズラインごとに持ち込み禁止品を公表しているので乗船前に確認が必要です。喫煙所以外での喫煙はタブーです。
◾️病気の発生
クルーズ会社は、伝染病と食品関連の両方の病気を防ぐことに重点を置いています。全てのクルーズ船では、乗客と乗組員の病気のリスクを最小限に抑えるため、とても厳しい健康プロトコル(規則)と衛生対策を講じています。

病気に対する安全対策

・食品の準備と保管に関する厳格な衛生基準を遵守
・医師、認定看護師、医療機器の配備
(X線装置、心臓モニター、除細動器など救命設備を備えた高度医療施設があるクルーズ船もある)
・全ての乗組員は応急処置訓練と公衆衛生、防火訓練を受けている

乗客ができる病気防止策はなんといってもこまめな「手洗い」「手指消毒」。体調が急変した場合は迷わず医療診察を受けることも船内の病気拡散防止につながります。


ロイヤルカリビアンでは可愛いコスプレガールを手洗い場付近に配置して手洗いを促進しています。

◾️クルーズ船の大規模災害

かつてコスタ・コンコルディアの転覆事故は人的ミスによるもので、クルーズ船全体の沈没や部分沈没などの災害は非常に稀です。

【座礁事故例】

船舶には多くの操作の自動化に役立つ洗練された安全システム、ナビゲーションシステムが搭載されています。

大規模災害の安全対策

・厳格な安全規制が適用、遵守
・乗組員全員が緊急事態発生の専門的な対応訓練を受けている
・救命ボートの設置

乗客は緊急事態に備え、ボートドリル(避難訓練)に真剣に参加!です

船上での「非常事態」こんな時はどうする?

◾️医療上の緊急事態の発生

クルーズ船に常駐する医師を含む医療専門スタッフ、医療設備などで様々な医療緊急事態に対処できる環境にありますが、必要に応じてヘリコプターによる医療避難を手配したり、最寄りの港に迅速に進路を変更することもあります。

◾️子供に対しての安全対策

・クルーズ会社は、子供を乗せた全ての船には子供サイズの救命胴衣や適した安全装備の提供をしなければならないことになっています。
・子供用安全ロックと安全なエッジを備えた客室を用意しています。

◾️クルーズ船が停電したら

バックアップ発電機やバッテリーバンクなどの冗長電源システムを利用でき、全ての重要な安全システムや医療施設の電源が維持されます。

国際安全基準とは

国際海事機関(IMO)

国際海事機関(IMO=International Maritime Organaizaition)は、業界全体の安全基準を規制する機関です。船舶の入出港に関する手続きを統一化することにより国際的な物流を円滑化や安全・環境の基準を統一化する機関です。

国際的な航海を行う船については、安全確保や海洋汚染防止など様々な観点から、全世界で統一的なルールを作成する必要があり、このようなルール作りが、ロンドンにある国際海事機関(IMO)で行われています。加えて、テロ行為や海賊への対処、海上輸送に通じた密輸や密航の防止なども、国際的な公開が安全に行われるために重要であり、IMOはこれらの問題にも積極的に取り組んでいます。(引用:外務省 国連外交 国際海事機関(IMO)概要)

IMOで作成された条約には、海上人命安全条約(SOLAS条約)、海上衝突予防条約、船舶のトン数測度に関する条約等他にも様々な条約があります。

海上人命安全条約(SOLAS)

全てのクルーズ会社は、海上人命安全条約(SOLAS)の基準に従う必要があります。この基準には、船舶の構造、安定性、船に搭載する必要がある安全装置の数量と種類に至るまであらゆる項目が含まれており、全ての船舶が最新の安全装置の搭載、最新の安全対策に従うよう継続的に更新されます。SOLASの義務(救命ボートや救命胴衣などの要件など)を守れていない場合、クルーズ会社に対し非常に重い罰金が課せられる可能性があります。

運航現地の規制

クルーズ船は、運航する国の現地の規制と安全要件も遵守する必要があります。例えば、米国で運航する全てのクルーズ船は、米国沿岸警備隊の厳格な安全規制を満たさなくてはならず、全てのクルーズ船は定期検査により安全要件を満たしているか確認されます。また米国で運航する外国クルーズ船であっても、安全基準や携行必須の救命設備に関する『旅客船舶サービス法(PVSA)』を遵守する必要があります。他国から出発するクルーズ船についても同様です。
(引用&Thanks to cruisehive:「クルーズのヒント:クルーズは安全ですか?本当に知っておくべきこと」)

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